6月7日(日)、翻訳家で法政大学名誉教授の金原瑞人さんの講演会を開催しました。
翻訳の現場から見える“言葉の奥深さ”や“AIとの未来”について語っていただきました。
講演概要
第二次世界大戦中のドレスデン爆撃を題材にしたSF小説『スローターハウス5』のTシャツを着て登壇された金原氏は、戦争つながりでウクライナの絵本『戦争が街にやってくる』の翻訳経験へと話を展開されました。著者来日の際、小学生の女の子から「ウクライナのために私たちにできることはありませんか」と問われた作家が「しっかり勉強してください」と答えたエピソードを紹介し、その言葉が今も心に残っていると語りました。
翻訳には原文から直接訳さず別言語を経由する「重訳」があり、絵本では読者層に合わせて内容が大きく変えられることもあると語りました。ドイツ人作家の絵本を英語版から訳した際、書き出しからドイツ語原文と英語版で表現が異なりアメリカの読者向けに視点が変えられていたと述べました。またスペインの絵本では英語版と原語版で結末が全く違っていた例も紹介され、絵本翻訳は原文からかなり自由に変えられることがあると語りました。明治以降、翻訳のスタイルは自由な「作り変え」から始まりましたが、外国の文化が日本に広まるにつれて必要性は薄れ、戦後は原文至上主義へと変化してきたと述べました。
英日翻訳で特に難しいのが人称の問題で、英語の “I” に対し日本語には私・僕・俺・先生・お母さんなど100以上の言い方があると語りました。また「だわ」「だぜ」「ね」といった終助詞は気持ちや性別を表すことができるが、ヨーロッパの言語にはほとんど存在しないと語りました。こうした人称や終助詞の豊かさが日本語ならではの感情表現を支えていると話されました。
また、禁を犯してインドへ渡り経典の翻訳に生涯を捧げた三蔵法師のエピソードを、ChatGPTに書き直してもらった講談調の語り口で披露する場面もありました。
AI翻訳については、調査では翻訳家・通訳が最もAIに代替されやすい職業とされていると語りました。金原氏自身もChatGPTと共同で文章を書いた経験を持つと話されました。仏教学者が述べた「我を捨てて共に生きる」という言葉が心に響いたと話され、AIとどう向き合うかをぜひ考えてみてほしいと参加者に呼びかけ、講演を締めくくりました。
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質疑応答の時間では、参加者の皆さんからたくさんの質問が飛び交い、大いに盛り上がりました。金原さんには、一つ一つの質問へ丁寧に回答していただき、学びと熱気にあふれた時間になりました。
金原さん、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。
日時
2026年6月7日(日) 14:00~16:00
場所
塩尻市市民交流センター(えんぱーく) 多目的ホール
講師
金原 瑞人(かねはら みずひと)さん
1954年岡山市生まれ。翻訳家・法政大学名誉教授。訳書は児童書、ヤングアダルト小説、一般書、ノンフィクションなど660点以上。訳書に『青空のむこう』(シアラー/求龍堂)『さよならを待つふたりのために』(グリーン/岩波書店)『国のない男』(ヴォネガット/中央公論新社)『月と六ペンス』(モーム/新潮社)『アメリア・エアハート 空飛ぶ野ネズミの世界一周』(トーベン/ブロンズ新社)など。その他、エッセイ集に『サリンジャーにマティーニを教わった』(潮出版社)『翻訳はめぐる』(春陽堂)『英米文学のわからない言葉』(左右社)、日本の古典の翻案に『雨月物語』(岩崎書店)『仮名手本忠臣蔵』(偕成社)など。
HPはhttp://www.kanehara.jp/。



