告知内容

 1967年、日本初の本格的な赤ちゃん絵本として誕生した『いないいないばあ』(童心社)。日本中の赤ちゃんを笑顔にし続けて刊行50周年を迎えました。童心社創立60周年でもある今年、代表取締役会長で多くの絵本や紙芝居の制作に携わってこられた酒井京子さんをお招きし、これまでの歩みをお聞きします。

講演概要

 11月3日、童心社代表取締役会長の酒井京子さんをお迎えし、同社のベストにしてロングセラーの絵本『いないいないばあ』の制作秘話や、酒井さんの絵本づくりにかける思いをお聞きしました。

  • 『いないいないばあ』誕生のきっかけ

 初代社長で編集長の稲庭桂子さんが「赤ちゃんにも文学がわかると思うから、赤ちゃんの本を作ろう」と児童文学者の松谷みよ子さんに持ちかけたのがきっかけ。松谷さんは「赤ちゃんの文学をつかまえられるかわからない」と言ったそうです。

  • 制作の過程

 絵は瀬川康男さんが自ら手掛けたいと申し出たそうです。薄いグレーの色を塗って下地とし、そこに美濃紙という和紙を重ねて下に色が染みるように色を塗り重ねて描かれています。書体はデザイナーの辻村益郎さんが担当。絵本にデザイナーを起用するのは当時としては珍しかったそうです。酒井さんは、現在でも通用する美しい文字であると評価しています。

  • 魅力

 「ほらほら」など呼びかけの言葉があることで、読み手と赤ちゃんが一緒に本の世界に入り込めるようになっています。酒井さんは、誰もが知っている遊びが言葉が加わったことで「文学」たり得るものになったとしています。また、次々に波が寄せてくるような、赤ちゃんにとってドラマチックな構成になっているといいます。

  • 絵本づくりについて

 『いない~』を凌駕するものを作ることは難しいとしながらも、肝心なのは赤ちゃんが読み手のお膝の上で愛情に包まれていることを実感しながら安心して本を楽しめることとしています。

 酒井さんは、『いない~』はもはや童心社だけのものではなく、「本の文化遺産」というものがあれば登録したいくらい、と言います。この絵本ができた50年前は、みな戦争経験者でした。戦争の厳しさと平和のありがたさを知っている人たちが、赤ちゃんに本当に良い本を届けたいと作ったもので、戦後日本人の良心や子どもに対する想いが詰まっていると考えています。

 本は作り手の込めた思いが大きいほど光を放つといい、現代では戦後ほど強いアイデンティティを持った作者や編集者は少なくなってはいるが、本物を見抜く力をつけ、光を放つ本を作っていきたいと語られました。

講演後には、酒井さんによる読み聞かせタイムもあり、楽しいひと時をすごしました。酒井さん、ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

日時

2017年11月3日(金曜日・祝日)13時30分から15時30分

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく)3階・多目的ホール

講師紹介

酒井京子さん(株式会社童心社代表取締役会長)

1968 年株式会社童心社に入社以来、主に絵本と紙芝居の編集制作に携わる。初めての仕事が、いわさきちひろ・画による『宮沢賢治 花の童話集』であった。以来、古田足日・田畑精一さく『おしいれのぼうけん』(単独製作部数220 万部)いわむらかずお「14ひきのシリーズ」(海外版も含め総製作部数 1000 万部)などのロングセラー絵本の編集を担当する。1985 年に取締役編集長。1997 年代表取締役社長に就任。現在取締役会長。絵本と紙芝居の普及と研究にも力を注ぐ。2001 年「紙芝居文化の会」(海外会員も含め会員数 850 名)をまついのりこらと共に創立、現在代表を務める。日本のみならず海外への紙芝居の普及に尽力。フランス・ドイツ・スイス・インド・中国・マレーシア・スペイン・シンガポール等で講師を務める。公益財団法人いわさきちひろ記念事業団監事。国立リハビリテーションセンター講師。

講演写真

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ポスター

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