8月1日(日)教科書では描き切れていない南極の自然(報告)

日時:8月1日(日)14:00~16:00
場所:塩尻市市民交流センター(えんぱーく)3階多目的ホール

8/1(日)に、南極越冬観測隊の隊長を務めたこともある、国立極地研究所の工藤教授による講演会を開催しました!

————〈講演概要〉————

実は長野県にご縁があった工藤教授。大学院時代は、毎週諏訪湖に通って湖の研究をしたとのこと。子どものころから釣りや水族館が好きで水中世界に興味があり、「水の中はどうなっているんだろう?」「水の中を探検してみたい!」という思いがきっかけで、湖の研究という仕事につながっているそう。

この講演会で、3つのことを覚えて帰ってほしいと話した工藤教授。

1つ目は、なぜ南極が地球で一番寒い場所なのか。それは「極地にある、高い陸地だから」。
極地は、地球の地軸の傾きにより太陽の光が届きにくいため寒い。さらに北極と比べても南極が寒いのは、南極大陸の標高が高いから。
外気温が-30℃~-40℃という環境で、昭和基地から離れた場所での調査では雪上車でキャンプをする。寝るときは、排気ガスによる中毒にならないためにエンジンを切らないといけない。すると雪上車の中は外気温と同じくらい寒くなり、その中で寝ているとまるで冷凍マグロになったような気分になる。
では、極寒の南極にある湖は全部冷たいのか。
舟底池という湖では、真冬に水温-18℃でも凍らないのに、夏は25℃まで上昇することが分かった。
これは、塩分がたくさん溶けた「飽和食塩水」の状態だから、-18℃でも凍らない。舟底池をはじめ、南極には世界でいちばんあたたかい・つめたい・しょっぱい・きれいな湖がある。そんな南極の湖の温度の不思議について解説された。
工藤教授は「未知」のことに、わからないことがある「無知」が合わさると、「不思議」になる。「不思議」にチャレンジするのが「科学」だとおっしゃった。

2つ目は、南極の湖の中にどんな世界があるのか。
南極の湖底には、藻が集まった円錐形のものがたくさん生えており、工藤教授たちはそれを「コケボウズ」と名付けた。コケボウズはなんと、最大1mほどの高さになるものもある。また、湖底が草原のようになっているところもあった。湖の中にはたくさんのコケや微生物などがいて、それらがつくりだした世界が広がっている。
ここで「この中で、底なし沼に入ったことのある人はいますか!?」と工藤教授からの質問が!
工藤教授の同僚・I博士は、なんと調査中に底なしのなまず池に飲み込まれそうになってしまい…その湖底には南極怪獣ペ〇ラの姿が…!?
というのは南極ジョーク。
底なし沼に身体が飲み込まれそうになったのは本当の出来事だった!それほど湖底が柔らかい場所もあり、調査は簡単ではないと言う。
南極の湖には、コケや微生物はいるけど動く生き物はいないのか。
そこでぬるめ池という湖の調査をすると、海で見つかるようなソコミジンコがいることがわかった。南極半島の湖の調査では、凍った湖にドリルで穴をあけて水中を撮影すると、日本の田んぼにもいるホウネンエビの仲間・ナンキョクホウネンエビが大量に泳いでいた。南極の湖にはさまざまな生き物の生きる様子が感じられるそうだ。

3つ目は、自然の厳しい現実について。
雪解けが遅かったある年、南極・バイヤーズ半島で鳥たちが騒いでいたので見に行くと、地面にたくさんの竪穴が空いており、中にはもれなくアザラシの子どもが落ちていた。なぜアザラシは、穴の中に落ちてしまったのか。
その理由は、アザラシがずっと寝ていた所の雪が体温で溶け、次第に出られないほどの大きな穴になってしまったというものだった。鳥たちが騒いでいたのは、アザラシが穴の中で死ぬのを待って食べるためという残酷な現実だ。雪解けが進むと陸には同じようなアザラシの死骸がたくさんあって、工藤教授は、「これは何度も繰り返されたことだ」と感じたそう。自然の流れ、命のつながりを南極では実感することができる。
最後に、人に聞いてもわからないことは、自然に問いかけて語らせる、それが「自然科学」だと締めくくった。


質疑応答コーナーでは、講演を真剣に聞いていた子どもたちからたくさん質問が出ました!
「どうして南極でオーロラが見えるのか」「雪上車ではどんなご飯を食べているのか」「コケボウズが1mの大きさになるには何年くらい?」など熱心な質問に、工藤教授はひとつひとつ丁寧に答えてくれました。

工藤教授、ありがとうございました!

当日会場では、塩尻立体地形図の会に協力いただき、南極に関する色々な展示を用意しました。国立極地研究所から提供いただいた南極の氷や、南極の写真も展示しました。さまざまな面で南極を知れる1日になったと思います。