筑摩書房創設者、古田晁の命日にあたる10月30日(木)、北小野地区で古田晁記念館文学サロンを開催しました。

今講演会は、出版社「筑摩書房」創設者で北小野出身の故・古田晁氏にちなんだ講演会です。

今年は2024 太宰治賞受賞者で小説家の市街地ギャオさんと筑摩書房元社長で現在顧問をしている菊池明郎さんをお招きしました。

講演概要

第一部 市街地 ギャオさん「だるいことにこそ、生きる意味が詰まっている」

 市街地さんは現在32歳。生まれた時から現在に至るまで、ずっと「だるい」と思って生きているそうです。何をしても続かない。興味を持ってやり始めたことも、糸が切れたように急にやめてしまう。それを克服しようと頑張っても逃げ癖、辞め癖がついていて、その癖からは逃れられなかったと言います。

 小説家を目指すきっかけになったのは18歳で出会った金原ひとみさんの小説。それまでの小説はただ物語を読むための装置としか思っていなかったそうですが、金原さんの小説では人の心のありようが多く記録されていたことに衝撃をうけたそうです。ここまで詳細に描けるものなんだ、と小説の面白さに気づいたと言います。

 実は25歳の時、一度小説家を目指し学校に通い始めた市街地さん。でも1年で自分には才能がないと辞めてしまいました。

 そんな中、30歳を目の前にした市街地さんは自分の人生に疑問を持ち始めます。本当にこのまま中途半端な人生を送っていくのか、何者にもなれない自分でいいのか。そして1年限定で本気で小説を書こうと決めたそうです。執筆中も常にだるいと思っている自分を、逃げられない状況にするために再び学校に通い、賞に出しまくったと言います。そんな中、見事に筑摩書房が主催する太宰治賞の受賞者に選ばれました。

 市街地さんは、小説家になった今でも毎日がだるいと言います。執筆している時も、常に「つらい」し、「小説が嫌い」と思っているそうです。「1年後にはもう書くことを辞めているかもしれない」と言いつつも、「小説家になり、小説を書くことで繋がれる場所がある。それが小説を書き続ける理由かもしれない」とおっしゃっていました。

第二部 菊池 明郎さん「どうなる?これからの出版界ー元筑摩書房の社長が出版界の今後を予測するー」

 菊池さんは、現在の出版業界や書店がおかれている状況を知ってほしいと、出版業界が一番好調だった1996年と比較しながら解説してくださいました。

 1996年と比べると、書籍全体で約1兆6,500億円(62.1%)のマイナス、書籍のみではおよそ5,000億円、雑誌だけで見るとおよそ1兆1,500億円のマイナスになっています。またそれに付随して全国の書店も閉店が相次いでいて、毎年400店以上が閉店しているというそうです。現在の書店数は8,000店ほどと言います。書店がない市町村が多い県では、2番目に長野県がランキングされているというショックな事実も紹介されました。ただ長野県の場合、過疎が進んだ地域でやむなく書店がなくなってしまった場所でも、書籍の提供は続けており、人口一人当たりの書籍売上高は上位に入っているという補足もありました。

 こういった状況の中で、書店の役割は大きいと言います。アメリカでは地元の読者に合わせた品ぞろえをしたところ売り上げを巻き返した書店が多いそうです。日本でも、最近の書店はどんなジャンルも揃えている万能書店ではなく、テーマやジャンルを絞った特化型書店が増えてきているそうです。そういった書店は、自分たちが選んだ本を仕入れ、時間をかけてでも責任をもって本を読者の手に渡していくそうです。

 若い世代が難しい本を読むことが難しくなっている現在、出版物を絶やさないためには、出版社や書店が読者を育てることも必要であるとおっしゃっていました。

 出版業界全体のお話のあとには、筑摩書房で手腕を振るっていた時のお話もしてくださいました。新入社員として働いていた時にあった古田晁とのエピソードや1973年に筑摩書房が倒産し、その後に社長として再建を果たすまで、営業マンとしての仕事のあり方など多岐にわたった話をしてくださいました。

 質問では、「日本の書籍の価格は適正なのか?」といった質問もあり、参加者で出版文化を考えるいい機会になりました。

市街地さん、菊池さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

日時

2025年10月30日(木) 13:30~16:00

場所

北小野地区センター 多目的ホール

講師

市街地 ギャオ(しがいち ぎゃお)さん

1993年、大阪府生まれ。大阪府在住。会社員。2024年「メメントラブドール」で第40回太宰治賞受賞。同作で第46回野間文芸新人賞候補、第1回永井荷風賞候補。その他、「きみが夢から醒めないように(すばる2025年2月号)」「IN a FloP(GOAT2025年夏号)」「おれの舌禍(小説すばる2025年7月号)」など。

菊池 明郎(きくち あきお)さん

1947年生まれ。1971年3月国際基督教大学卒業後、筑摩書房へ入社。1999年6月に(株)筑摩書房 代表取締役社長に就任。2011年6月から2013年6月まで代表取締役会長を務め、現在は顧問。

「日本書籍出版協会」副理事長、「出版梓会」理事長など出版団体の仕事も長年取り組んだ。

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