5月11日(日)、農民文学の編集長を7年間務め、2016年度の「信州しおじり本の寺子屋」にお越しいただいた三島利徳さんの講演会を開催しました。
講演会の前に行われた開講式では、教育長よりご挨拶をいただきました。長年続く本の寺子屋にどれだけ多くの方が参加してくれているか、塩尻市における本の寺子屋の重要さ、そして、そこに参加してくださる参加者の皆様や講師の方々、長田さんに感謝を述べられました。
三島さんは農民文学に向き合う自分の気持ちについて語ってくださいました。
講演概要
三島さんは用意してくださったスライドと資料に沿ってお話をされ、初めに自分が農民文学に向かう際の気持ちとして、中国六朝時代東晋の詩人陶淵明の「帰去来の辞」があるとお話されました。「帰去来の辞」は宮仕えを辞めて、故郷に帰り田畑と共に生きようとする決意の詩だそうです。
1947年に下伊那郡豊丘村の山間地農家に生まれた三島さんは農家を継がず、1970年に信濃毎日新聞社に入社しました。新聞社で仕事をする中、赴任先での取材から、大きく変わっていく農業・農村を知り、変化について描く農民文学の重要さを知ったそうです。その結果、信濃毎日新聞で文化部や論説委員を務めた際には、農民文学作品について積極的に発信を行いました。
新聞社を退職した後、三島さん自身も2016年に安曇野市出身で農民組合運動に参加し、奔放な生き方をした山田多賀市氏を題材とした『破天荒作家山田多賀市と農民文学』で農民文学賞を受賞されました。その後農民文学の編集長として、316号から336号の7年間21冊の「農民文学」を手掛けたそうです。編集長を行っている際には、日本農民文学会の会員が減少し中々苦しい時代もありましたが、編集内容の工夫することで会員を増加することができたと嬉しそうに仰っていました。
また、講演会の中では、農民文学賞を受賞した詩の朗読や三島さんが大切に持っている農民文学関連の資料も多数ご紹介いただきました。
最後に、これからの農民文学の展望をお話された三島さん。現在の米の異常な値上がりにより、農業や環境、地域の人間で協力することの大切さを守っていこうとする精神が高まっている。農民文学もその一角を担えるよう、会員を増やし、新たな農民文学の書き手を育てていきたい。今自分が実践していることとして、生家の手入れを行ったり、故郷の文化を守る人たちとの交流をしたりし、その精神を忘れないようにしている。そして、最初に読んだ「帰去来の辞」をもう一度読み、講演会を締めくくりました。
日時
2025年5月11日(日) 14:00~16:00
場所
塩尻市市民交流センター(えんぱーく) 多目的ホール
講師
三島 利徳(みしま としのり)さん
1947年下伊那郡豊丘村生まれ。村内小中学校、飯田高校から静岡大学人文学部卒業。信濃毎日新聞社入社。本社報道部、佐久支社、文化部デスク・部長、論説委員(社説や「斜面」を執筆)を経て2012年に退社。2016年に「破天荒作家 山田多賀市と農民文学」で農民文学賞受賞。著書に「安曇野を去った男 ある農民文学者の人生」(人文書館)。2016年には、本の寺子屋で「本の魅力―書評の功罪―」と題して講演。現在は長野県カルチャーセンター「文章を書く」講座講師(通信制もあり)。長野看護専門学校「論理学」講師。長野市青木島町在住。


