8月5日(月)清水眞砂子さん「心うたれたその先は~読書の現在を考える~」(報告)
告知内容
『ゲド戦記』の翻訳者として知られる清水眞砂子さんと一緒に読書の現在について考えてみませんか?
講座概要
深く鋭い視点から語られた清水さんのお話から、当たり前と思っていたことを改めて考え直し、自分の考えを持つことの大切さを教えていただきました。やさしい口調で語られる、鋭く・重さのある言葉に、自身への様々な問いを突きつけられた参加者のみなさまも多かったのではないでしょうか。
「本を読むと心が豊かになる、優しい子になる」とよく聞かれますが、「心が豊かになる」とはどんな意味なのかを私達に問いかけた清水さん。安易にその言葉を使うことの危うさを考えさせられました。
また、世の中の流れにそのまま従うのではなく、「せめて自分は足を止めたい、そして逆方向に足を向けたい」と、ご自身が影響を受けた本から得た思いも語ってくださり、参加者の皆さんは真剣に耳を傾けていらっしゃいました。
こうした読書から得たものや体験を踏まえ、「児童文学には元気で明るい子どもが描かれるが、派手な子どもだけではなく部屋の隅っこで静かにいる子どもにも目を向けてくださいね。文学には毒もあり、きれいなところだけを子どもに伝えていくのではなく、自分自身にまず置き換えて考えてほしい」と呼び掛けられました。
他にも「これまでがこれからを決めるのではなく、これからがこれまでを決める」、「“何が書かれているか”ではなく、“何が書かれていないか”が分かってこそ、初めて読めたということ」という言葉に、私はハッとさせられました。清水さんのこれまでの様々なご経験、研究、思慮などが基にあり、もの凄い説得力がありました。
また、清水さんは夜空のオリオン座を見つめる度に「これを見つけた何千年も昔の人達がいてくれて嬉しい。その人達が名付けてくれたお陰で、今私達はオリオン座と知ることができる。」と感慨深く思われるそう。星座の成り立ちを知ったのも本を読んだからこそ。つまり本を読むということは、時間・空間を超えて人とつながることであると、嬉しそうに語ってくださいました。
2時間弱のすばらしい講演は、到底語りつくすことはできませんが、少しでも講演の素晴らしさが伝わればうれしいです!本当に素敵な講演でした。清水さん、ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!
日時
2019年8月5日(月曜日)14:00~16:00
場所
塩尻市市民交流センター(えんぱーく)3階多目的ホール
講師
清水眞砂子(しみずまさこ)さん
翻訳家、児童文学評論家。1941年、日本の植民地支配下にあった北朝鮮に生まれ、1946年春、両親の故郷の村(現在の掛川市)に引き揚げる。静岡大学教育学部卒業後、県立高校教諭(英語担当)9年間を経て、のち1976年4月から2010年3月まで青山学院女子短期大学専任教員。現在同大名誉教授。1968年から児童文学の翻訳ならびに評論の仕事を始め、1974年に評論「石井桃子論」(『講座日本児童文学8 日本の児童文学作家3』所収,明治書院,1973)で第7回日本児童文学者協会新人賞を受賞。主な訳書にマヤ・ヴォイチェホフスカ『夜が明けるまで』(岩波書店,1980,第28回産経児童出版文化賞受賞)、ル・グウィン『ゲド戦記』全6巻(岩波書店,1976~2004,第41回日本翻訳文化賞受賞)。主な著書に『子どもの本の現在』(大和書房,1984)、『子どもの本のまなざし』(JICC出版局,1992,第33回日本児童文学者協会賞受賞)、『本の虫ではないのだけれど』(かもがわ出版,2010)、『大人になるっておもしろい?』(岩波書店,2015)、『あいまいさを引きうけて』(かもがわ出版,2018)などがある。最新刊は、『子どもの本のもつ力―世界と出会える60冊』(大月書店,2019)。