9月8日(日)に、朝日新聞記者でルポライターの三浦英之さん講演会を開催しました。

数多くのノンフィクション賞やドキュメント賞受賞作を世に送り出している三浦さん。ご自身の著書を通して、読者に伝えたい思いをお話していただきました。

講演概要

『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』
『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』
この二つの著書に共通するキーワードはエネルギー。

日本は工業国なのにエネルギーがないという、この矛盾にずっと悩み続けている。
過去においても石油や鉱物資源を求めて満州や南方諸島、アフリカに進出を繰りかえしてきた。そしてそこから撤退したあと、現地に取り残された人たちがいて、辛い境遇に立たされているという。その人たちの貧困や差別など、取り上げられてこなかった苦しみを現地に行って調べたことを本にしたのがこの二冊。
この本をきっかけに企業などによる救済が始まっている。

三浦さんは「皆さんに知ってもらうことが最初の一歩。見たものを伝えるので、考えて欲しい、動いて欲しい」と話されました。


『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』

2016年、自衛隊が南スーダンに派遣された時、現地からは戦闘状態であるとの報告があがっているのにもかかわらず、政府は「戦闘」ではなく「衝突だ」と詭弁を使っていた。
その時も三浦さんは現地へ行き、何が起こっているのかを伝え、共同著者の布施祐仁氏は情報公開請求により自衛隊日誌の存在を明らかにした。これにより自衛隊は撤退することになり、大臣は更迭された。
最近では情報公開制度を行ってもほとんどの文章が黒塗りにされてしまっていると言います。三浦さんは、真実を知るために行っている情報公開制度が後退してしまっていることについて危惧されていました。


『涙にも国籍はあるのでしょうか 津波で亡くなった外国人をたどって』

2011年に起こった東日本大震災の被害者は日本人だけではありません。
「東日本大震災で外国人が何人亡くなったのか日本人は誰も知らない。政府も自治体も把握ができていない。」三浦さんはこのことを震災12年目に知ったそうです。これは当時の制度と外国人のオーバーステイが要因という。
オーバーステイの外国籍の人が被害にあった場合でも、知人や友人は届け出ない(出せない)ため、被害者として把握されず、家族の元にも帰れないという。三浦さんは口を閉ざす外国人に根強く取材をして、日本に存在していた人たちの話をまとめたのがこの本です。

制度の隙間に落ち込んでしまった人たちにも人生がある。
「すみません。取材をさせてもらえませんか?」の手法でそんな話を集めていけば、この国のことがなんとなくでも見えてくる。それが僕の仕事だとおっしゃっていました。


聞いた話全てを鵜呑みにするのではなく、自分で出向いて自分の目で見る。話をすることで本音を聞くことができ、いろんな姿が見えてくる。そこに行けないのであれば、やはり書籍だ。
書籍にはその道のスペシャリストが膨大なエネルギーと膨大な情報量が詰め込まれている。読めばだんだん日本が見えてくる。そこには理想もあるし、夢もあるし、底力がある。

さらに、本は素晴らしいもの。こんなことがあったのか、こうなっているのかに気付かせてくれる。
テレビでは伝えられない知識を紹介してくれるのが、図書館や本屋さん。
地方の本屋さんがなくなることは危機的で、知の拠点がくずれてしまったら、この国はどんどん衰退していくと思う。
本を読む習慣を切らさないでください。知力のある人は豊かな人生を送っています、と結ばれました。

県外からも多くの方々がお越しになり熱気ある講演会になりました。

日時

2024年9月8日(日) 14:00~16:00

場所

塩尻市保健福祉センター 3階市民交流室

講師

三浦 英之(みうら ひでゆき)さん/朝日新聞記者、ルポライター

 1974年、神奈川県生まれ。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞、『帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年』で2021LINEジャーナリズム賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で第22回新潮ドキュメント賞と第10回山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞。現在、岩手県盛岡市在住。

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