6月16日(日)、江戸深川を舞台にした市井物の執筆だけでなく、現代物や中国時代小説など新しいジャンルを常に開拓している作家、山本一力さんをお招きして講演会を開催しました。
一つ一つ言葉を選び、心地良いトーンで話される山本さんの講演に皆さん引き込まれていました。
講演概要
「私は“ものかき”です。“ものかき”は人の営みを通して自分が思ったことや、これはぜひ皆さんに分かってもらいたいと思うことを題材にしています」とお話が始まりました。
一番大切に思うことは「時間は流れない、積み重なっていく」ということ。執筆する際には、繰り返し推敲し、違うと思うことは何度でも書き直す。これはパソコンを使っていても同じ事で、消して書き直すことや切り取って別のとこへ持っていく事は、原稿用紙のように推敲の痕跡はなくともパソコンのメモリーには残っている。
思いだせないような子供時分のしくじりも、様々な方と会い聞かせてもらったいいお話しも、すっかり忘れてしまったとしても自分の心を辿っていけばちゃんと残っているということ。そういうものを集めて私は原稿を書いているという言葉から、先生の作品の奥深さの訳を知れたように思いました。
山本さんは以前、富岡八幡宮の近くに住んでおられ、そこで出会った老人が八幡様のお使いではないかと思うような不思議な体験が、“ものかき”への第一歩になったことや、平岩弓枝さんや松本清張さんから、世の中は自分側から見える世界だけでなく、相手側からの目線も持たないと真実は見えてこない。見えている向こう側の人が、どうしてくれているのか分からなければ一人よがりで終わってしまう。神の目線で物語を書かないといけないということを教わったと話されていました。
先生は緑内障が進み以前のようにはっきり物が見えないご様子でしたが、質問者の位置を確認し、お顔を向けて話を聞いてくれました。
参加者が「明日は味方という言葉が好きです」とお伝えすると、山本さんもとてもしんどい思いをしている時にこの言葉を聞き、この言葉の強さに身体が震えたとおっしゃっていました。「明日を敵にするのも味方にするのも自分の心持ち次第だ」との言葉が胸に残りました。
質疑応答の後、読書が好きでこうして集まってくれた皆さんに会えて、ものすごく元気が湧いてきた。明日までに仕上げないといけない原稿も書けそうだとおっしゃられ、会場が温い笑いに包まれ講演会は終了しました。
ジョン・マン第八巻が完成したら、また塩尻に来ていただけると約束していただきました。先生お待ちしています!
日時
2024年6月16日(日) 14:00~16:00
場所
塩尻市市民交流センター(えんぱーく) 多目的ホール
講師
山本 一力(やまもと いちりき)さん
昭和23年高知県高知市生まれ。東京江東区在住。平成9年「蒼龍」で第77回オール讀物新人賞を受賞。平成12年には初の単行本「損料屋喜八郎始末控え」を上梓。
平成14年第126回直木賞を受賞し、平成27年には第50回長谷川伸賞を受賞。「だいこん」「辰巳八景」「銀しゃり」「菜種晴れ」などの深川を舞台にした市井物を中心に執筆。近年は、「鯨組」「ジョンマン」「龍馬奔る」「朝の霧」など郷里土佐を題材とした作品にも力を入れている。現代物や中国時代小説など新しいジャンルも常に開拓中。
最新刊は「たすけ鍼 天神参り」(朝日新聞社刊)

