講演概要

子どもの頃、「自分が外れているかもしれない」と不安だった。子どもは大人から、ああしろこうしろと言われっぱなし。自分を受け止められず、言われる言葉に合わせられずにいた。だからと言って気が弱い訳ではなく、小学校に上がるまで一切口をきかなかった。父が8歳の時に亡くなり、母とよくぶつかった。いつも空回り、親から嘆かれてばかりいた。

自分が書いているものは、自分が子どもの頃のことや子どもの頃に感じたこと。なんで子どもの頃ああだったんだろうと考えながら、子どもを主人公にした作品を書いている。

子どもの頃の生きづらさは、大人の生きづらさとは違う。それは、子どもは物事の判断基準を握っていないから。こうしようとすると親がダメと言い、こうしたくないのに親がやれと言う。子どもには今の気持ちを表す言葉が見つからない。自分の中にうまく表せなかった気持ちの貯まり具合が、大人になった言動に影響する。

フィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』『まぼろしの小さい犬』は、本人でさえ掴めないでいる子どもの気持ちがよく描かれている。
トールモー・ハウゲンの『夜の鳥』や、ルナールの『にんじん』も然り。

このような暗く辛い話を子どもに読ませていいのか?子どもには夢や希望を与えなければいけないのでは?…そういう意見があって当然。だが、暗い本は本当に駄目なのだろうか。「ああ、僕だけじゃなかったんだ!」と思う子がいるのでは?その気持ちがその子を支えているのではないだろうか。
他にも、神沢利子『いないいないばあや』、石井桃子『幼ものがたり』、佐野洋子『わたしが妹だったとき』は名著。

清水眞砂子さんが、昨年度の本の寺子屋で講演された際に、『まつりちゃん』について触れた。
『まつりちゃん』は8つの短編から出来ている短編集。主人公がみんな違い、それぞれの形で5歳のまつりちゃんに関わる話。みんなちょっとずつまつりちゃんと接し、出会った人たちの方がむしろまつりちゃんから力を得ている。

幼い子って庇護されるだけの存在じゃない。小さな子の存在が人を助け、励ますことがある。
大人だけの社会だったらどんなにつまらないか。根源的な問題をいつも子どもが表している。子どもに大人は支えられている。子どもの本を読むと大人になって忘れてしまったことを思い出させてくれる。子どもの本には子どもが抱いている迷いや悲しみ、喜びが書かれ、普遍的な生きる意味を持っている。

どの人の中にも子どものその人がいる。子どもの頃の自分を忘れて生きていく訳にはいかない。一度子どもの時にどうだったかと考えると、根源的に求めていたことに気付く。

「私は執念深いんです」という岩瀬さんの言葉に、会場がドッと沸きました。「子どもの頃のことをずっと思っている」という岩瀬さんだからこそ、どの作品にも子どもの繊細な心の動きが見事に書き表されているのでしょう。

「自分の本の中でお勧めしたい本は?」との質問に、岩瀬さんが1冊答えてくださいました。それは『地図を広げて』だそうです!みなさんもぜひ、一度読んでみてください。『ぼくが弟にしたこと』は、ミュンヘン国際児童図書館に収められてもいるそうです。

岩瀬さん、参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

日時

2020年10月4日(日曜日)14:00~16:00

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく)多目的ホール

講師

岩瀬成子(いわせじょうこ)さん
1950年山口県生まれ。岩国市在住。

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