7/26(月)紫波町図書館主任司書である手塚美希さんの講演会を開催しました。塩尻に来るのは、2016年に行われたビジネスライブラリアン講習会に講師として参加した以来2回目だという手塚さん。紫波町でのオガールプロジェクトの実例をもとにプロジェクターでスライドを流しながらお話しいただきました。

 今回はZOOMを利用したリモート配信を使って県立長野図書館、大和市、岐阜市、小諸市でも視聴できるようにしました。今回は塩尻市立図書館職員と合わせて約90人が聴講しました。

講演概要

 秋田県上小阿仁村出身で、土地の96%が山という小さな村だったが、その分教育熱心で子供を大切にしていた。家族や地域、教師も対等な立場で話し合える村は好きだが、何もないのがつらかった。「過疎でも幸せなのではないか」という点に注目しながら「村が豊かになるには」ということを考えるうちに情報発信基地として村に図書館を作ることが目標になった。 大学では図書館の設立の仕方については学べなかったため、浦安市立図書館司書に応募した。面接の際にひとつだけ、「図書館って一言でいうとなんだと思いますか?」という質問をされ「まちづくり、人づくりをする場」と答えた。その後、秋田県立図書館に所属したのち、紫波町立図書館の立ち上げスタッフとして単身赴任をすることになった。 岩手県紫波町は農業主体の村。そこで「オガールプロジェクト」に参加した。成長するという意味の方言「おがる」とフランス語で駅を意味する「ガール」を組み合わせて名付けられた。 オガールエリアには9つの施設があり、全国初のバレーアリーナがある。東京オリンピックの男子バレー、カナダチームが合宿に来た際、新型コロナウイルスの感染対策を徹底しつつ、出来る限りの交流をした。 オガールプラザは年間30万人の利用があり、内20万人は図書館来館者。図書館の所蔵冊数は10万冊ほど。交流館では「自主企画」「自主運営」「自主参加」がルール。共存する、許容する空間づくりを目指している。 コミュニケーションで問題解決を目指しているため、挨拶と笑顔が基本。他にも、ガイドラインやロゴマークのデザインをしたり、図書館バッグを作って販売したりするなど新しいことを次々と行っている。 運営方針は「知りたい」「学びたい」「遊びたい」を支援する図書館。 町で何が起こっているか把握するために日頃から利用者と話をしたり、目的ごとに手段と連携先を変えたりしている。 学校にも出張図書館に出向き、子どもたちに情報の精査や取捨選択ができるよう、調べ方やまとめ方を伝えている。 「調べる学習マスター」という図書館で調べる学習コンクールも行い、参考文献の書き方なども伝えている。不思議だなと思っていることを紙に書いてもらい、その答えが載っている本を一緒に展示をする。自分が持った疑問の答えを知るだけでなく、誰かの疑問を知ることができる展示になった。 紫波町は農業主体の村なので、農業人口の減少や生産者の高齢化は避けられない問題。図書館で農業の相談をしても良いのだと気付いてもらうために、野菜作りの講座や獣害(シカ)対策の勉強会を担当課と連携して行うことで利用してもらう人口を増やす取り組みをしている。 コミュニケーションで人をつなぐ、会いに行くことを重視していたが、コロナ禍の現在は企画展示に力を入れている。図書館内に小屋を作ったり、アフターコロナの住まい方、感染症と生きることをテーマにしたり、マスクの付け方動画を作るなど人の不安を可視化し、人の心に寄り添う方法を模索した。 司書が町のデータバンクになり全てをつなぐことが重要。社会福祉協議会のミーティングにも参加し、図書館で15~49歳対象の就労相談を奇数月1回行なったところ、相談者が増えたと反響があった。 各課イベントに図書館も協力させてもらい、絵本の読み聞かせをベアレンビアフェストで行った。それ以外にも岩手県立美術館や岩手医科大、ワイナリーでブックバーを行なったこともあった。盛岡ブックキャンプや、出版社とも連携した。 地域で情報を発見、つなぎ、広げること、全てはコミュニケーションで始まる。人と人を直接つなぐため、自分から図書館の外に出ていくこと。貸出からコミュニティ志向へ、包括的サービスへ。本から伝わる情報、人から伝わる情報、司書は地域と人に寄り添う人である。 最後にアメリカ図書館協会年次大会で発表をしたときの動画を紹介した。

 講演会後の質疑応答では、少ない人数でどうやって時間のやりくりをしているのか、スタッフがチーム力を発揮し、モチベーションを保つにはどうしているのか、等の質問に対し、機会を逃さぬよう、試しでやってみる、行動してみることが大事だということ、人とのコミュニケーションが苦手だという人もいるが、司書は誰かを助けたいという気持ちを誰でも持っているので、人と司書をつなげ、図書館以外の方と話す機会を作るなどしていると答えてくださいました。手塚さんがおっしゃった「司書はコミュニケーションのハブである」という言葉が強く印象に残る講座でした。手塚さん、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

日時

2021年7月26日(月曜日)14:00~16:00

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく)多目的ホール

講師

手塚 美希(てづかみき)さん
紫波町立図書館 主任司書

845bc8f255aa774279a96db38bc52f0a-1