2023年6月25日(日)に、政治学者で東京大学名誉教授の御厨貴さんの講演会を開催しました。『時事放談(2007~2018)』の司会と同様にキレのある口調で、政財界の長老たちの隠されたエピソードをお話いただけた濃い講演会でした。

講演概要

 表題のオーラル・ヒストリーとは『口述の記録』のこと。

 当事者や関係者だけが記憶・記録していて、そのままでは消え去ってしまう「歴史」を、聞き手側が意志を持って聞き出し、それを精査・検証を行ったうえで商業出版や報告書の形で世に公表することを目的にしています。

*****************講演内容(抜粋)******************

元内閣官房副長官 石原信雄氏
※『首相官邸の決断-内閣官房副 石原信雄の2600日』(中央公論社/2002年)

 日本の政治家や役人には、内輪のことは外部の人間に喋ることなく墓場まで持って行く「伝統」がある。その中で初めてちゃんと記録を残した人物ですとおっしゃいました。

 石原氏が内閣官房副長官をつとめた8年間は、自民党が初めて政権をおり、「2大政党制による政権交代が起こる政治を目指す」という政治改革の波が訪れた時代でした。政権交代を内閣官房副長官として経験したのは石原氏しかおらず、この経験をキチンと整理し引き継がねばならないという使命感から、自らやると言いだされ始まりました。政界に大きなインパクトを与えたそうです。

元読売新聞グループ本社代表取締役主筆 渡邉恒雄氏
※『渡邉恒雄回顧録』(中公文庫/2007年)

 90年代終わりの夏に集中してオーラルがおこなわれました。回顧録の【まえがき】で、渡邉氏は「とんでもないものができ上ってしまった。御厨先生をはじめとする3人の先生がオーラルでやれと言うからやってみたら思わぬことまで口走ってしまった。「それで?」と聞かれるとついしゃべってしまった」と言っています。

 オーラルには一種の狸と狐の化かしあい的なところがあり、うっかりしゃべってしまうか上手く乗りきるかというせめぎ合いがある。自分のしゃべりたい事だけをしゃべった回顧談では「その時の裏側」はでてこない、これが伝統的な「聞き書き」とは違うところだとおっしゃっていました。。

中曽根内閣時代の官房長官 後藤田正晴氏
※『情と理』(講談社/1998年)

 初めての面会で軽くあしらわれそうになった時に、食らいついたことで実現したとのこと。後藤田氏からは「オレがみてきた戦後だぞ。正しい歴史ではないぞ。」言われ「それこそが聞きたい!」となったそうです。そこからは政界の御意見番として経験した貴重な事柄を合計27回x2時間にわたりオーラルを続けたそうです。まさにオーラルの醍醐味だと感じました。

 政治家、特に総理大臣経験者のオーラルは難しいとのことです。

 安倍晋三氏のオーラルは直接携わっていないが、読んでみると回顧録の中身はほとんどが安倍氏の自慢話になっており、まだ生煮えとの感想を持たれたそうです。オーラルは話し手と聞き手が対等でなくてはならないが、これは安倍氏のしゃべり倒しになっているとも。ただ26万冊売れてよかったで終わってしまうのが一番まずく、それを後の人達にどうつないでいくのかが肝心で、そのためには皆さんの関心が必要だと言われました。

 中曽根康弘氏は4冊の回顧録をだしているが、どんどん謙虚さがなくなってきているし、竹下登氏や宮澤喜一氏は頑固で手強かったそうです。

 極めつけは小泉純一郎氏です。「小泉氏のオーラルは出版されますか?」の質問にキッパリと自信を持って「出ません」と答えているそうです。何故なら「彼は過去のことを全部忘れていますから」これには会場がどよめきました。

元総理大臣 安倍晋三氏 ※『安倍晋三回顧録』(中央公論新書/2023年)

元総理大臣 竹下登氏 ※『政治とは何か 竹下登回顧録』(講談社/2001年)

元総理大臣 宮澤喜一氏 ※『聞き書 宮澤喜一回顧録』(岩波書店/2005年)

ダイエー創業者 中内功氏(功の「力」は「刀」が正しい)
※『中内功 生涯を流通改革に献げた男』(千倉書房/2009年)

 中内氏はものすごく疑り深い人だったそうです。オーラルの途中で亡くなってしまい、息子の中内潤氏や流通関係者にもオーラルを行ってまとめたが、心残りの一冊になってしまった。ただ幼少期から、主婦の店ダイエーを興し高度成長期に入る寸前までは直にオーラルができ、たいへんユニークなオーラルができたとおっしゃっていました。

堤清二
※『わが記憶、わが記録 堤清二✕辻井喬オーラルヒストリー』(中央公論新社/2015年)

 実業家で小説家・詩人(ペンネーム:辻井喬)、経済通でもあることから、それぞれの専門家を引き連れてどんな話題にも対応できるように万端準備したそうです。ただ堤氏自身のオーラルではなく、堤清二を辻井喬がみているところがあり、それを見逃したと反省もしておられました。

他にも、

野中広務氏
※『聞書き 野中広務回顧録』(岩波書店/2012年、岩波現在文庫/2018年)

武村正義氏
※『聞き書 武村正義回顧録』(岩波書店/2011年)

 藤井裕久氏や塩川正十郎氏のお話もありました。

 現在、進めれれているオーラルは、

古川貞二郎氏
→村山内閣から小泉内閣にかけての内閣官房副長官。請われるままに何十回と重ねており、参事官室の机はどんなふうに並べられていて情報はどんなふうに流れていくのかなど3,000ページに及んでいる。なにかの形で世に出したいとおっしゃいました。

谷垣禎一氏
→自民党で3年間も野党総裁を経験したのは彼だけ。長らく自民党は自由民主党総裁=内閣総理大臣の構図でやってきたために、野党になってしまうと組織が動かず自民党は崩壊してしまうと感じたとのことです。

 参加者からの質問で、一番印象に残っている人には「後藤田正晴氏」、これから可能であればオーラルをしてみたい方として「美智子様」と答えられていました。

 普段とは違い30代~40代の方々の姿が多く見ることができ大変嬉しい講演会となりました。御厨貴さん、ご参加いただいた皆様方ありがとうございます。

日時

2023年6月28日(日曜日)14時00分から16時00分

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく)3階 多目的ホール

講師紹介

御厨貴さん

政治学者 。東京大学名誉教授。

1975年東京大学法学部卒業。博士(学術)。
東京都立大学教授、政策研究大学院大学教授、東京大学教授、放送大学教授、青山学院大学特任教授を歴任。
TBS「時事放談」司会者、「東日本大震災復興構想会議」議長代理、「天皇の公務負担軽減等に関する有識者会議」座長代理、日本公共政策学会会長。
現在、東京大学先端科学技術研究センターフェロー、サントリーホールディングス取締役、サントリー文化財団理事、ひょうご21世紀研究機構副理事長。創発チャネルYouTube「御厨政談」開設。

講演写真

ポスター

286a3df3d0e4a8625c7cb55a6f17dc13