8月6日(日)、様々な出版社で文芸編集者として活躍し、現在は田畑書店の社主をされている大槻慎二さんの講演会を開催しました。大槻慎二さんは、文芸編集者として働いてきた中で感じたことやそこで担当した作家のこと。また、版元として今取り組んでいることやこれからについてお話ししてくださいました。

講演概要

 長野県に生まれた大槻さんは、1983年に福武書店(現在のベネッセコーポレーション)に入社しました。当時の福武書店は、生徒手帳や教科書を主に作ることで在庫を出さない仕事をしていたそうです。そんな中で、文芸雑誌『海燕』の担当編集者になった大槻さん。文芸雑誌『海燕』は寺田博さんが創刊編集長を務め、小川洋子さんや吉本ばななさんなど、数々の著名な作家たちを世に出していました。

 編集者として入った大槻さんは、予定していた原稿を落とされたり、原稿をもらうために作家が行きそうな飲み屋で待ち伏せしたりしたこともあった、あの時代の空気はもうないと感じているそうです。『海燕』の新人文学賞から発掘した新人作家を大きく育ていきました。佐伯一麦さんや角田光代さんも新人文学賞を受賞した作家たちです。当時は作家と編集者との関係作りを大切にし、編集者が深く作品に関わることもありましたが、今はメールだけのやりとりで本ができる時代。昔の一見無駄に見える雑事が、新しい作家という種を枯れないように見守る編集者としての仕事だったと話しました。また、文芸雑誌『海燕』の編集者として働いた6年間が自分を作っていると大槻さんは仰っていました。

 1995年に福武書店を退職し、別の会社でも編集長を務めたのち、後継者を探していた田畑書店を2016年に継ぐことになりました。出版社の仕事は、何もない0の状態から物を育てて売る百姓の仕事に近く、田畑書店はまだ土を作りかけていて、これから何を育てていくか考えているところだと大槻さんは話していました。

 講演会の最後で、大槻さんは今のマスメディアは書店も出版社も崩壊し、ライツ事業で収益を出している。10年間という時代の根幹で言葉の破壊が起きてしまった。ここからは再生を目指していく必要がある。と現代のマスメディアに対する問題などにも触れられていました。

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 質疑応答では、政治についての話も飛び出し、参加された方と講師とのより深い意見を聞く貴重な時間となりました。
 また講演会後は、田畑書店で出版しているポケットスタンダートの販売もあり、参加された多くの方が手に取ってくださいました。

 大槻さん、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

日時

2023年8月6日(日曜日)14時00分から16時00分

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく)3階 多目的ホール

講師紹介

大槻慎二さん

田畑書店社主。1961年、長野県生まれ。伊那北高校を経て名古屋大学文学部仏文科卒。1983年、福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、96年、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)で「一冊の本」を創刊、編集長を務めた後、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を歴任し、2011年に退社。16年に田畑書店社主を継ぎ、現在に至る。また、大阪芸術大学で、出版・編集に関わる講座を、朝日カルチャーセンター立川教室で創作講座を担当している。

講演写真

ポスター

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