2023年7月29日(土)に、塩尻市北部交流センター(えんてらす)にて絵本評論家・作家である広松由希子さんの講演会を開催しました。

講演概要

 広松さんは絵本の文や翻訳だけでなく、評論や編集、企画展示などを手がけ、また国内外の絵本コンクールの審査員を歴任し、新聞雑誌などでも記事を連載中という、まさに絵本専門家であり、ご本人曰く【絵本の何でも屋さん】とのことです。

 そして『日本の絵本100年100人100冊』玉川大学出版部 

 講演会場には約100年間の絵本を時系列に100冊、ずらりと並べて展示しました。

 塩尻市立図書館で所蔵のあるものは用意しましたが、残念ながら所蔵がないものは広松さんご自身の蔵書をお持ちいただきました。100冊の本を並べるととても圧巻で、目で見て触れる絵本年譜となりました。講演ではこの100冊の本について詳しく解説していただきました。

 まず、日本の絵本の特色とはなんでしょうか。特色の一つに縦書きのものがあること、開きが左右両方あるということです。歴史的な時間軸で流れを知ることも大切ですが、世界の中での日本の絵本の位置づけを見ることも面白いかな、とおしゃっていました。

 1911-15年に出された近代絵本の金字塔『日本一ノ画噺』はまるでちいさな宝石箱のようでした。1923年、関東大震災の翌年に出版された『ドンタク絵本』は子どもたちに少しでも希望のある絵本を、という思いが込められているそうです。

 太平洋戦争突入の1941年『マメノコブタイ』 何とかしてきれいなもの・面白いものを子どもたちに届けたいという思いが感じられます。敗戦後の日本は、様々な制約があるなかで、意欲に満ちた童画家たちの工夫で良質な絵本が多く出版されました。

 1953年には現代絵本のはじまりといわれる「岩波の子どもの本」は、多くの読者に絵本の楽しさを伝えよろこびの種を蒔いてくれました。1956年福音館書店による月刊誌「こどものとも」が誕生し、絵本の黄金時代が幕を開けました。

 1970年代には絵本ブーム到来、哲学・ナンセンス・抽象絵本など様々なジャンルや社会問題や老いや詩などの踏み込んだテーマの作品も登場し、絵本の表現が広がりました。80年、ブームは収束しますが、絵本作家たちは、さらにアーティスティックに様々な表現を試み、日本らしい伝統的な技法を使った絵本や革新的なデザインの絵本も出されました。そして90年代以降、読者は子どもだけではなく、絵本はすべての人のものという意識が広がっていきました。

 このように2000年代までの絵本をじっくり詳しく解説してくださり、100年という長い時代の流れを感じることができました。その時代の大人が、同じ時代を生きる子どもたちに伝えたいメッセージが込められていることを教えていただきました。

 100年の絵本から学ぶヒントとしていくつかのキーワードを示していただいた中で印象的だったのが、【わからなさを保つ力】…わかりやすいということも大事だけれど、「なんだかわからないけれど子どもに届いて欲しいものや自分が受け止めたいものが絵本の魅力なのだが、そこが削がれてきているのではないか…とおっしゃっていました。また【バリアフリーとボーダーレス】として、絵本は世界とつながる窓になって欲しい、と言われていたのも心に残りました。

 時間いっぱいにお話をしてくださり、盛りだくさんの内容となった講演会でした。広松由希子さん、ご参加いただいた皆様方、どうもありがとうございました。

日時

2023年7月29日(土曜日)14時00分から16時00分

場所

塩尻市市民北部交流センター(えんてらす)1階 101・102会議室

講師紹介

広松由希子さん

絵本の文、翻訳、評論、展示企画などを手がける。国内外の絵本コンクールの審査員を歴任。2017年ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、『かえりみちとっとこ』(岩崎書店)、『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、訳書に『ナイチンゲールのうた』、『ナンティー・ソロ 子どもたちを鳥にかえたひと』(BL出版)、『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)など。2020年、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にオープン。

講演写真

ポスター

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