2023年9月10日(日)に、文芸評論家で早稲田大学名誉教授の高橋敏夫さんの講演会を開催しました。

講演概要

 長野に来るのは3回目だという高橋さん。今日はここ30年間の時代小説の話をしたいと仰いました。

 松本清張はどこに行っても話をしているくらい人気が高く、戦後の平和について語った作家で、一緒に講演に回りたいくらいだそうです。

 時代小説の中心になっているのは藤沢周平だと力強く語り、藤沢周平の「暗殺の年輪」を初めて読んだときに、大江健三郎を知っていたのになぜ藤沢周平を知らなかったのかと恥じたと振り返られました。当時は歴史時代小説の中心であった司馬遼太郎とは外れた作家を中心に読んできたという高橋さん。

 時代小説ブームが到来した1980、90年代順にたくさんの作家を紹介してくれました。その中でも武内涼氏は大学の教え子で、1年生の時から講義していたと話され、ぜひ応援してほしいと会場に投げかけました。他にも、特に今一番推している作家ということで今村翔吾氏をあげました。デビュー作が即直木賞候補になるなど、どこまで伸びるか想像がつかないそうです。

 世間一般で言われている歴史小説と時代小説の違いとは、歴史小説は純文学に匹敵するが時代小説は通俗小説であると優劣がはっきりついているとして、島崎藤村の夜明け前など日本を代表する歴史小説だと仰いました。しかし、今はずいぶん違ってきているそうです。これまで五味康祐と柴田錬三郎の剣豪小説ブーム、山田風太郎等の忍法小説ブームと続き、井上靖や司馬遼太郎の歴史小説ブームがきたが、市井もの、町人ものと言われるブームが今きているそうです。山本周五郎の「柳橋物語」は戦後すぐに書き始めたもので、今までとガラッと変わって市井もの、町人ものを、だまされたと思って読んでほしいと仰っていました。

 今までの江戸の中期など豊かな時代を舞台にした市井ものとは違い、新たな作家たちは2010年になって奈良時代や戦国時代の終わりを舞台に書き始め、時代小説の中でも平和を礼賛するだけではなくて、「悪とぶつからなくてはいけない」そんな話が出てきたそうです。2000年代に新たな戦争が世界中にばら撒かれ、2010年の中頃には法律も色々変わり、平和な戦後の終焉が訪れたからだと話され、講演会を締められました。

高橋さん、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

日時

2023年9月10日(日) 14:00~16:00

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく) 多目的ホール

講師紹介

高橋敏夫さん

1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学大学院博士課程単位取得退学。専門は日本近現代文学研究、文学・文化理論研究。『理由なき殺人の物語―「大菩薩峠」をめぐって』、『藤沢周平 負を生きる物語』ではじめた時代小説評論は、『抗う 時代小説と今ここにある「戦争」』までつづき、佐高信との対談『藤沢周平と山本周五郎』もある。他に『井上ひさし 希望としての笑い』、『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』などがあり、コレクション「戦争と文学」編集委員、「文豪の家」シリーズの監修者もつとめた。

講演写真

ポスター

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