11月27日(日)、法政大学教授であり、作家としても活躍されている島田雅彦さんの講演会を開催しました。「フィクションの方が現実的」と題して、フィクションが持つ力についてお話ししてくださいました。

講演概要

 島田さんは、まもなく作家生活40年を迎えることに触れられ、自身の創作活動の原点でもあるギリシャ悲劇や古代ギリシャ哲学についてお話しされました。
 エンターテインメントに通じる基本的なセオリーは、すでに古代ギリシャ時代のアリストテレスの『詩学』という本で抑えられているといいます。ドラマやストーリーを作る起承転結の構造について、改めて分析し直して『小説作法XYZ』という書籍にまとめられたそうです。この起承転結の構造とはあらゆるものに応用可能で、商品広告や政治的プロパガンダの手法にも応用されているそうです。
 さらに、よくご覧になっているという動画配信サービスにも触れられ、韓流ドラマによく見られる復讐のエンターテインメントについてもお話しされました。復讐とは起承転結の振幅を大きくしてくれる装置であり、読者は予想を裏切られながらストーリーが展開し、見事意外な方法で復習に成功することをもって大きなカタルシスが得られると言います。そして、フィクションの中だからこそ実現しうる革命や復讐の持つ力について触れられ、それを表現したのが最新作の『パンとサーカス』だそうです。
 また島田さんは、現実とフィクションとは、反対語のようでいてコインの裏表のように表裏一体で、相互干渉しあっていると指摘されました。物語作者は虐げられた人々の不満や不安をすくい上げ、人々は物語に救いを求めるという相互作用が生じてきたといいます。
 小説は時代を映す鏡になっていて、どんなに私的なことを綴った「私小説」であっても、そこには社会の反映があり、制度やシステムの不備をさりげなく告発することに繋がっていると言います。その意味で、極めてフィクションとは現実的だと言えるとまとめられました。

 島田さんの創作の原点やフィクションの持つ力、ときには社会への鋭い批判も交えながら語っていただき、たいへん密度の高い講演会となりました。終了後には質問が相次ぎ、一つ一つ丁寧にお答えいただきました。島田さん、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

日時

2022年11月27日(日) 14:00~16:00

場所

塩尻市市民交流センター(えんぱーく) 多目的ホール

講師

島田 雅彦(しまだ まさひこ)さん

1961年東京生まれ。1984年東京外国語大学ロシア語学科卒。在学中の1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー。主な作品に『夢使い』、『彼岸先生』(泉鏡花賞)、『自由死刑』、『退廃姉妹』(伊藤整文学賞)、『悪貨』、『虚人の星』(毎日出版文化賞)、『君が異端だった頃』(読売文学賞)、『スノードロップ』ほか多数。芥川賞選考委員。法政大学国際文化学部教授。

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